まったりし隊

Gujo Hachiman - Hirayu

2005.07.31. - 08.04

我が「まったりし隊」が今日あるのは、全てこの旅のおかげ。モノ、時間、何もかも投げ捨てて、心も裸の状態でテントかついで日本を旅することで、底知れぬこの国の文化に触れていく。20代前半は海外を放浪し、ヨシコと出会い、カンボジア、タイを二人して陸路で旅したことから始まった。何かから抜け出そうと模索し、外に向けられ続けた目線を、再び日本に、内なる広い世界に帰してくれたこの旅に感謝して。

ヨチュオ・セカチノフ

郡上八幡

郡上八幡

やって参りました。 郡上八幡。 盆踊りが有名です。 手前の美濃太田で雷雨が滝のようである。終点まで行けるかなーっと 運転手さんが心配するほどの豪雨に長良川鉄道からは何も見えず。ただ、カヌーの集団が流れていったのが気になる。 大阪から青春18切符で始めたこの旅。 テントと寝袋を担いで 勝手気ままに寝食を共にするは 御存知、我が「まったりし隊」副隊長、 ヨシコ・マッタリーナ。

究極の気分屋さんである。 暑いところ、寒いところ、 怖いところ、高いところ、 滑りやすいところ、 蚊に刺されたその瞬間。 さらには腹が減ったとき 調子に乗って食べ過ぎたとき、 荷物が重く歩き疲れたとき、 どうしようもなく眠いとき。 それ以外は御機嫌な御仁である。

そして今回の旅で、僕がテントを選んだ理由はただひとつ。 宿泊費を最小限にして、この日本をゆっくり旅したいからである。 海外でのバックパッカーに慣れていると、日本での旅費というのが馬鹿らしくなる。 温泉も、会席料理も、浴衣も、冷房も何もいらない。 雨露を防いでくれるテントで十分だ。 そして旅をする時間は自らつくるもの。

とにかく通いなれた道を離れ、都市部に集約された情報からも遠ざかり、 意外と知らないこの国の風土を肌で感じ、生物である人間として生きてみたい。 それは都市で生きる僕個人の、無いものねだりの発想であった。

さてさて郡上八幡、目の前を流れる川の水は何処までも冷たい。 生活用水として利用されていたであろう用水路も、今は観光としての色が濃く その水を訪ねようとするものは大抵、僕たち旅人である。 それでもゆっくりと川岸の公園で過すことで、少しずつ見えてくる町の姿があった。

朝、軒下ではツバメの雛が声をあげ、母の帰りを待ち、 ひっそりとした民家には置き忘れられたかのように、子犬が悲しげな瞳を向ける。 人がいなくなったのかと思えば、子どもたちの声が川から聞こえ、 午後の日差しに照らされたアスファルトに、濡れた足跡をいくつも残し走り去っていく。 新橋から飛び込もうとする旅人は、いつまでも橋の上に立ち続けることで顰蹙を買い それを嘲笑うかのようなトンビは空高く、 桜の木下、その木陰ではひとつのベンチに老人が4人も座って彫像のごとく動かない。一方、ぬるりとした岩場を前に、恨み節を唄うは副隊長。すかさず隊長、差し出せ御食事、うな丼、郡上ハム、スイカにジュース何でも御座れ。さもなければ祟りあり。ヨシコが不機嫌になると必ず雨が降るのは何故なのだ?恐るべし。

そして夕刻、川の中州に渡った女の子が足を川につけながら、ポテトチップスをむさぼり、 男勝りに川遊び。そんな小さな女の子も日が沈み、街灯が灯る頃には、 踊りの太鼓の音に誘われて、浴衣を召して、下駄の音をからりと鳴らす。

そしてヨシコもカメラを片手に盆踊りを楽しんでいるようだ。 一通りシャッターを切ったあと、今度はこの参加型の盆踊りに挑むらしい。 詳しくは分からないが、ここではいくつもの歌があり、それに対してひとつの踊りがある。 僕は「春駒」が好き。踊りも激しいが、掛け声が楽しい。最初は恥ずかしさが勝って輪の中に入ることをためらうのだが、見よう見まねで踊る。

ヨシコはというとオリジナル・ダンスを躍らせると世界一なのだが、 規定の踊りとなると持ち前のヘンテコなリズム感が生かされず、苦心している。 やがて踊り疲れ、お腹が減ったヨシコは、トウモロコシを食べようと提案。 そういえば昼にトウモロコシを買っていたことを思い出す。 買ったはいいものの、割り箸が無いことに気付き、そこらの店でもらおうと考えた。 近くに大判焼きの店があり、割り箸を下さいと頼むも、それだけでは申し訳ないので 大判焼きもひとつ注文。初老のその店主は、 「えーっと、割り箸はふたつで大判焼きはひとつ」 そう言いながら快く?割り箸と大判焼きをくれたのだった。

あぁ、これだ、これ!日本における最強の調味料は醤油なのだ。 そう確信した瞬間である。 はぜるトウモロコシに 醤油をドバドバっとたらして ジューッという芳香があたりに漂うと グーッと気持ちよく腹が鳴る。 川岸で集めた枯れ木は パチパチと音を立てて勢い良く燃え上がり、 おもしろいほどモロコシを焼いていく。おぉ、もう食べてくれと言っている!

それをハフハフ、もぐもぐと食し、 川で冷やしておいたビールを引き上げ グビリ、グビリとやると もうそこはこの世の天国である。 もらった割り箸も結局使わず、 手でわしづかみ。 おいしいねの連発である。 この郡上八幡。 水が綺麗で、米がうまい。 大地からの恵は おいしくいただきたいものだ。 そしていただいたあとは 綺麗に片付ける。 これ基本。 流木を片付けていると、 手にもった枯れ木の先に 大きなカエルがひらりと乗り、そのまま静止。豊かな時間が流れていく。

そして次の日、川辺の公園で朝を迎えた僕は、そっとテントを抜け出して、川へと立小便。気持ちよすぎる。すると、散歩中の犬が負けじとマーキング。人畜の小便のかけあいが始まった。こんちくしょーめ!と思うが、途中から勝敗はどうでも良くなって、トマトをかぶり、コーヒー牛乳で乾杯、朝食をすませたら、また旅に出るか!とテントを早々とたたみ始めた。

郡上八幡から飛騨高山までバスに乗ろうと、バス停へ。そこには小さな黄緑色のベンチが4つあるだけで、何も無ければ車もまばらである。予定時刻を過ぎてもバスは来ず、ヨシコは「御迎え来るよねー?」とひたすら心配するも、10分遅れで高速バスが来た。緊張ほぐれて即寝のヨシコを乗せたバスはいざ高山へ。

高山

飛騨高山は天気予報とは裏腹に快晴。おそらく冷凍みかんにありつけたヨシコの機嫌が大きく左右しているのだろう。有名な古い街並みはごく僅かな範囲であって、それ以外は普通の町である。とにかく高山に用はないので、早々と平湯を目指すことにし、昼間からビールをグビリ。店内で平湯のキャンプ場に電話して、空き状況を聞いてみた。

その結果、どうやら平湯のバス停近くにオート・キャンプ場があるとヨシコに言うと、「へーっ、全部やってくれるキャンプ場なんやー」と真顔で言う。は?オート・キャンプって全自動じゃなくて、自分で自動車を運転し、その車で寝泊まりしながら各地を移動することだと知っているのであろうか。それはそうと飛騨高山から平湯までのバスは凄く眠かった。いつ着くか分からないので「ヨシコ、起きといてくれないか」と頼むと、イヤッ!ヨシコが寝ると言って早々に寝られてしまう。恐るべしマイ・ペース。

平湯

平湯温泉キャンプ場は新しく、橋の近くにテントを設営する。すぐ後ろが小川でとても気持ちがいい。ヨシコが毛布を借りて来てくれ、夢の様な快適空間となる。郡上八幡ではゴツゴツとした地面が背中を直撃し、よく眠れなかったことが嘘のようである。しかも蚊がいない!素晴らしい!さらに、まったり過ごせる緩やかな時間があたりを包んでいくのです。


そして、近くにある平湯の森という施設へ。¥400で温泉入浴である。秋は綺麗だろうなと思う森の木々に囲まれて、2日分の垢をおとす温泉は格別であった。そして風呂上りに穂高ビール片手に、飛騨牛のカルビ丼、そしてピザ。ピザは牛乳の香り豊かで、最高。しかも¥500という夢の様な値段にビックリ、はまる。でもタバスコのかけ過ぎに注意!


朝から洗濯をすますと、平湯大滝まで散歩に出かける。巨大なバーム・クーヘンと飲むヨーグルトで腹を満たして、足湯でボーッとする。体が温まり、整備された歩道を歩いていくと、目の前に滝が現れる。皆、パチリと記念撮影を済ませる、さっさと消えていくのだが、空にはツバメが飛び交い、コケが羽をひろげ、黄色い花が咲いていることを知っているのであろうか。そして高いところから見渡そうと、僕は裸足になって大きな岩を駆け上がる。こういう滑りやすい場所は靴のスパイクなど信用ならぬ。足の裏の感触が、僕を安全へと導いてくれるのだ。

テントの裏の小川に散らばる大き目の石をかき集めて、自然の冷蔵庫を作る。川の水温は冷たく、夏の日差しが嘘のように感じる。直売店で買ったプチトマトや、ビールなどを冷やして夜食の準備をし、燃料となる枯れ木を集めるために、また違う川へ行き、そこから大量の枯れ木を抱えて、テントである我が家へ帰る。夕刻にも関わらず、森はすでに闇の気配を従えていた。

急いでカマドを作り、郡上八幡で鍛えられた焚き火の腕前を持って、枯れ木を燃やしていく。昨日の朝露のせいか、中々着火しなかったが、何とか火力を得て、しめじのマユネーズ醤油、ジャガイモ、シシトウなど網の上で焼いては、ビール片手につまんでいくのだ。シシトウの辛さに二人で悶絶。目の前の炎の熱さが口の中の辛さを倍化させているように感じる。

腹を満たした宴の後に残る焚き火の灯火は、燻りながらも空に瞬く星のようにキラキラと輝く。あぁ、綺麗だな。それでも鎮火せねばならぬのだ。無念。そんな物思いにふけていると、ジューっ!という音とともに、地上の星空はあえなく消滅。え?っと思っていると、そこには水を撒き「ヨチュオー!水汲んできてー!」と豪快に笑うヨシコがいるのだった。

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