まったりし隊

Kiyosato - Nobeyama

2005.08.09 - 08.13 

小渕沢から小海線で清里まで。当初の予定では野辺山へ行くつもりだったが、清里フォト・アート・ミュージアムに行きたくて下車。駅前の案内所でキャンプ場の場所を聞いて、徒歩20分。旅の最初では重くて辛かった荷物も、体力がついてか今や余裕で担いでいける。素早くテントを設営すると、じゃがいも料理専門店でコロッケやグラタンを食す。

夜になると、突然の豪雨。ヨシコと風呂からあがった頃には、キャンプ場に小さな川が幾つも現れ、せっかく温まった身体が急速に冷えていく。しかも風呂場からテントまで意外と距離があり、辿り着いた頃には、もう一度風呂に入りたい!と思うほど濡れたのだ。しかもテント自体が濁流の上で浮いていて、さながら漂流中のイカダ状態。飛び散る雨水が夏使用のテントの中まで進入。もう笑うしかない。何とか眠り、朝を迎えると、あれっ?と思うほどの静けさを持って太陽が昇り始める。

何となく気分が落ち込んでいるところへ、いきなり親父から電話がかかる。どうやら旅に出ていることを知ったらしく、「いい歳して、いつまでもフラフラと旅をするな!男は働いて、女を幸せにするのだ!」と毎度の人生哲学炸裂である。もう10年近く同じことを言うのには脱帽。親父と考え方が違うのだから仕方ないでしょ!といつも口論になって終わりである。まぁ、喧嘩できるだけ幸せとも思うのであるが。そんな少し元気のない僕を知って知らずか、ヨシコはモーニングを食べながら、すぐ横の猫の看板を見て、ニャー!っと真似ばかりして大いに騒いでいるのである。幸せそうでなによりだ。

そして、雲間から陽光まぶしい昼、フォト・ミュージアムに行くことにする。途中、観光バスのおじさんに場所を聞いて、そこからさらに30分ほど歩く。車がないので毎日10キロは歩くのだが、それが本当に楽しい。車内から見落としそうな場所には、隠された驚きがいたるところに転がっているからである。トンボの群れ、自分よりも高いトウモロコシ畑、夏の日差し、干からびたミミズ、蝉の声とその抜け殻、風のざわめき、そのひとつひとつに心震わせて鳴り響くシャッターの音。その全てを語り、笑いながら、時に大きな声で歌い歩いていく。

そうして辿り着いたミュージアムでは、驚くほど素晴らしい内容の展示が待っていた。ジョン・スウォープの「日本1945年8月」と題された写真の数々が最高に良かった。日本人は鬼であると教えられていたアメリカ人が、そんな情報とはほど遠く、むしろ前近代の様相を見せる戦後すぐの日本を、ひとりの人間として戸惑いながらも率直な言葉と写真で綴っていくのです。

さらにヨシコが大好きな「リサとガスパール」の原画展も近くの絵本ミュージアムで見ることが出来た。ハーブ・ティーを飲みながら絵本の世界へ。ヨシコは狂喜乱舞である。そして外のベンチでまったりしていると、観光客らしき車がどんどん来ては過ぎ去っていく。人は効率の観点から、すぐに目的地である結果を求めてしまう。確かに写真も原画も素晴らしいものであったが、それを語り、ゆっくり歩いた道、結果よりも経過で過ごしたあの時が、この旅一番の思い出となった。

お腹がすくと、すぐに不機嫌なヨシコを連れてカフェへ。オレンジのケーキと、チーズ・ケーキをぺろり。キッシュはアスパラが入ったもので、ナイフを入れるとチーズと卵の香りが鼻先を刺激する。かなりうまい。食べ終わるなり、ヨシコはもう夕食の話である。「次はなー、鳥、鳥やー!」と奇声を上げて、夕刻には甲州地鶏のグラタンを幸せそうに召し上がるのでした。

清里での我が家、新栄清里キャンプ場から見る空は近く、わた飴のような雲がふわりふわりと飛んでいく。西の空に月が輝き出したころ、ハーレーに乗った男が4人、けたたましいエンジン音を響かせてやって来た。ヘッドライトがキャンプ場を忙しなく照らし、今宵の寝床を探している。今夜は晴れることを願いながら、芝生を散歩。

夜。町の灯りの支配が及ばぬ天空は、星であふれ、飛行機が光点となって飛び去り、遥か遠く、人工衛星が恒久の航路をひく。そんな空を見上げる僕たちもとへ、まるで落し物のようにゆっくりと夜露が舞い降りはじめるのです。

Nobeyama

清里から野辺山に移動した我が隊は、駅前の観光案内所のありがたい申し出を受け、荷物を預かってもらい、野辺山宇宙電波観測所を目指す。その片道2キロの散歩中、高原野菜の畑が見渡す限り広がる景色に圧倒された。ヨシコは「おいしそー!」を連発、今にも食べそうである。ランニング中の高校生らしき運動部とすれ違いながら、のんびり歩くのです。

たどり着いた野辺山宇宙観測所は、宇宙・ロボット系が大好きな僕にとって夢の様な景色であった。空に突き出た巨大なアンテナは、映画スター・ウォーズのエピソード6、惑星エンドアにあるデス・スターの防御シールド装置そのままである。今にもイウォークや、ハン・ソロが出てきそうで感無量である。素晴らしい!ヨシコは途中から腹が減ったと連呼しクーデター、味噌カツ丼を与えて鎮圧する。

再び駅に戻り、タクシーを拾う。このドライバーが最高に個性的な人で、コンコンッと車窓を叩き、ドアを開けてくれと合図すると、「ボーッとしていて申し訳ありません!」と言わなくていいのに自己申告しながら飛び出してくる。「お嬢さんの御荷物から」と紳士的。「滝沢牧場までお願いします」と言うと、「お送りします!」とこれまた紳士的。そして目的地に着くと、精算、おつりをもらう時には「御縁がありますように!」と5円おまけしてくれるのかと思えば、何故か50円くれて去って行った。大阪のタクシー・ドライバーとしては生きていけないような、素朴で真面目な人なのです。

が!たどり着いた滝沢牧場で事件発生。事前に調べた情報で、牛や馬がいっぱいいて、わーっと牧場で騒いでいるイメージを持っていたのだが、全然いない!ヨシコはそれだけを楽しみに野辺山に来たので、精神的ダメージが非常に大きかったようだ。「もういい!日本嫌い!外国行っていっぱい羊と遊ぶ!」と落ち込んでしまった。パンフレットってあてになりませんね。

とりあえずテントを設営し、洗濯。シャワーを浴びて牧場を散策する。駅前のスーパーで買った80円のモモがおいしすぎたことで機嫌が直ったヨシコは、ブランコや子どもの遊具で大はしゃぎ。忙しい女である。スモーク・チーズを買って食べながら、暇なので「しりとり」しようということになる。オッケー、じゃ俺から言うね。「鳥山明」。ヨシコ、「ランディー・ジョンソン」。え?終わり?

そんな牧場にいても仕方ないので、八ヶ岳牧場まで散歩することにした。往復10キロは余裕であるが関係ない。途中、直売所を発見し、葡萄と焼きもろこしを買い、歩きながら食べる。トウモロコシは生で食べれるほどで、香ばしい醤油味がたまらなくうまい。葡萄も安くてうまいが、うますぎて乱雑になり、少し白の上着が紫の果汁に染まってしまった。

一方、ヨシコは周りの景色に夢中である。ヨシコが景色にレンズを向けることなどめったにないので、よほど気に入ったんだなと思う。野菜の収穫に汗流す人々。あらためて様々な職種があることに気付き、ビーチ・サンダルをペッタン、ペッタンと鳴らしながら色々考えてしまう。そうこうしていると靄の中から、駅で拾った例のタクシーが現れ、僕たちを通り過ぎると、急ブレーキ。顔をひょいっと出したかと思うと、「散歩でしょー!」と声をかけ、再びテール・ランプをきらめかせ靄へと消えて行く。あぁ、いい所だ、野辺山。姿見えず鳴くウグイスの声が心地よい。

結局、八ヶ岳牧場は衛生面の理由から入ることが出来なかったが、風が彼等の匂いを運んで、すぐ近くに多くの牛たちがいると教えてくれる。再び腹が減ったヨシコは、「蕎麦、うどんばっかりでよー、親子丼とかねーのかなー。鳥と卵で出来んじゃねーか」と輩状態になる。すぐさまソース・カツ丼と山かけマグロを食べに行くも、どうやら激しく食べ過ぎたらしく「うー、ヨチュオ。お腹いたい。ゲーゲーしそう」と本当に忙しい女である。まぁ、いいけどね。


kofu

野辺山から宇都宮に向けて長距離移動開始。季節がらお盆なのでホームでは出迎え、別れる親子の姿が多く見られた。途中、甲府で下車する。信玄公の銅像に挨拶をすませ、ヨシコは京ラーメンに舌鼓。味が関西だ!関西が最高!と御機嫌になる。そして町で服を見たり、甘そうなパンを買ったりと、女の子の一面を見せる。野山もいいけど、たまには町もいいと思う。

しかし、それも束の間。八王子を過ぎ新宿へと近づくと、そこは鉄の森。鈍く光る屋根のつながりと、網の目の様な電線、湧き上がる人の流れに、僕は再び閉口してしまったのです。

 

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